サワダ マサヒロ
  澤田 雅弘   文学部 書道学科   教授
■ 標題
  端方旧蔵三井本九成宮醴泉銘拓の入墨傾向―諸本との比較をもとに―
■ 概要
  九成宮醴泉銘の影印諸本のうち、現在わが国で最も一般に流布するのは端方旧蔵三井本(端方本と略称)で、わが国の現代における同碑の書法や筆趣に対する印象の多くは端方本によって形成されているといっても過言ではない。しかし歴代書論が論ずる旧拓九成宮醴泉銘書法はむしろ李祺本に類する。端方本を詳細に観察すると、入墨による整形が満遍なく認められ、端方本の筆画が李祺本よりも痩細であるのは、刻面の経年変化の必然ばかりでなく、その入墨による効果でもあることが知られる。そこで他本八種と対照する方法で、端方本に見られる入墨の実際を具体的に分析し、端方本には他本と異なる際立った特色、すなわち①転折における不即不離の妙と背勢の結構を助長する加工が施すこと。②筆画の際にまで攻め入る入墨により鋭利な筆画を生み出す一方で、筆画の一部を削ぐことによる筆画の短小化や痩細化によって、不即不離の妙を却って低減することも頻繁であること、を検出した。端方本の欧法の特色を読み取りながら泐損と筆画との際を入念に探り当てようとする点は他本を凌駕するが、その分、欧法に対する入墨者の解釈が介入する。すなわち端方本が醸し出す九成宮醴泉銘の書法の特色や筆趣のうちの幾分かは、入墨者の解釈に由来するところがあるといってよい。
  単著   大東書道研究   大東文化大学書道研究所   29,42-54頁   2022


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