サワダ マサヒロ
  澤田 雅弘   文学部 書道学科   教授
■ 標題
  三井本十七帖考―香港中文大学文物館北山本との比較を踏まえて―
■ 概要
  香港中文大学文物館本十七帖(以下、香港本と略称)と三井本十七帖とが密接な関係にあることは一見して察知できるが、両本がどのような関係にあるかについてはまだ定説がない。王壮弘氏は三井本を香港本の翻刻と断定し、王玉池氏は両本を同版とするが、三井本は断筆や筆画方整の特色を「発展」させたとし、何碧琪氏も両本を同版とするが、三井本には「加刻」あるいは「重拓」がなされたことで香港本との相違が生じたとする。
 本稿の考察で得た主な新知見は以下のとおりである。1)両本は擦り傷や泐損が一致するほか、偶然に拓出された刻画の底の様態にも一致が認められることから、両本が同版であることは自明で、翻刻説は誤りである。2)両本間に生じた字画の相違は、両本それぞれに原因があるが、より多くは香港本に施された入墨や胡粉による加工に起因する。3)三井本に顕著な断筆は、香港本における断筆緩和の加工によって際立った要素が大きく、三井本を原版本来の刻意を損ねたとする中国における論調は当たらない。4)三井本の断筆を不自然としながらも、運筆を分からせようとした意図的な鉤摸あるいは刻意の反映であるとする日本における論調は、比較対照してきた上野本に対する知見の不足を背景とする誤認であり、断筆は程度や頻度に差はあれ、もともと他本にも広く認められるものであって、決して三井本固有の意図の反映ではない。5)断筆は西晋頃すでに認められる用筆で、王書の普遍的書法の一端と考えられることから、三井本の断筆は、原版の状態と王書の一面をむしろ濃厚に残す刻本である。

  単著   書学書道史研究   書学書道史学会   (27),1-14頁   2017/11


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