フクシマ ヒトシ
  福島 斉   スポーツ・健康科学部 スポーツ科学科   教授
■ 標題
  環境整備だけでは高齢者の転倒は予防できない(大腿骨近位部骨折675例に対する聴き取り調査から)
■ 概要
  【背景と目的】
転倒に関する研究は多くが診療録記載に基づく調査であり、記載情報の不足や標準化された記載法がない、対象が少ないなどの問題がある。本研究の目的は、同一検者が統一された問診を用いて大腿骨近位部骨折患者から聴き取り調査を行い、転倒の実態を正確に把握することである。
【対象と方法】
対象は2007~2014年に入院した65 歳以上の同骨折患者675 例である。同一検者が転倒状況につき場所、姿勢、原因(内的要因か外的要因か)などの聴き取りを行った。居住場所、受傷時と退院時の歩行能力、一週間あたり外出日数、屋外歩行時間、認知症の有無についても調査した。
【結果】
年齢層が高くなるにつれて屋内での内的要因による転倒が増加した。屋内転倒446 例のうち61.7%は居間、廊下、台所など障害物が少ない場所であった。階段は22 例、風呂場は3 例であった。内的要因300 例と外的要因282 例の比較では、年齢、居住場所、転倒場所、受傷時歩行能力、一週間あたり外出日数、屋外歩行時間、認知症の各項目で有意差を認めた(χ二乗検定、p<0.01)。ロジスティック回帰分析では、内的要因による転倒に強く影響を及ぼす因子として屋内転倒(オッズ比1.95)、認知症(同2.34)があり、歩行能力低下に強く影響を及ぼす因子として年齢(1増加 同1.09)、内的要因による転倒(同2.00)、認知症(同3.01)があった(p<0.05)。
【考察】
 加齢に伴う心身機能低下は屋内の安全な場所での転倒を増加させるため、超高齢社会では内的要因による転倒を予防することが特に重要である。欧米の高齢者転倒予防ガイドラインによると環境整備のみで転倒が減少するという証拠は不十分とされ、バリアフリーの徹底化は運動機能低下に結びつくとの危惧もある。今後の転倒予防対策として環境整備のみに偏らず運動介入についてもさらに注目されるべきである。

  ◎福島斉、佐藤和強、苅田達郎、伊賀徹、近藤泰児、岡﨑裕司
  単著   整形外科   南江堂   68(5),401-406頁   2017/05


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