カワチ トシハル
  河内 利治   文学部 書道学科   教授
■ 標題
  県展審査にあたって
■ 概要
  新潟日報社取材原稿(元原稿)
品の良い字・味わい深い字・いつ見てもいつまで見ていても飽きない字
 
書の美しさはどこにあるのでしょうか。二〇年ほど、美学や芸術学から思索して来ました。今のところ、その書が放つ「雰囲気」そのものにあり、それを感受する人の「心」にあると考えています。書を見ると、筆と墨によって形造られた文字の形、その形の構成や配置、その形を動かす勢い、そして全体としてのまとまりなどが、目に映ります。見た瞬間に、強い、優しい、眩い、淡い、温かい、心地良い、エレガント、気魄がみなぎっているとさまざまに感受しますが、無声無音で、独特の目に見えない雰囲気があるといえます。専門用語でいえば「書風」、書きぶりです。書き手自身が発する人間性が、磨き上げた技を通して書に映し出されるとき、その芸術性に魅了され美しいと感じるのです。
恩師のお二人、今井凌雪先生と沙孟海先生は、ともに外見上威厳がありましたが、実際はとても温厚で敬愛するお人柄でしたし、いつ見てもいつまで見ていても飽きることのない傑作を数多く遺されました。凌雪師は「書は哲学である」、沙老は「修養のない者は字を書くな」と仰いました。私はこの両語を座右銘として研鑽して参りました。
ですので、私は、品の良い字、味わい深い字、いつ見てもいつまで見ても飽きない字、このような字を書けるようになりたいと願っております。誠に欲張りな話ですね。この3つには順番があります。まずは品の良い字を書けるようになりたいと思います。書は、書かれた文字から、書いた人の品性と教養が映し出されるとても恐ろしい世界であると考えるからです。どのような言葉を書くかも、書く人の見識に関わっています。言葉は、読書や会話の中から常日頃探しています。時には自作の詩にも取り組みます。
次の味わい深い字と、その次のいつ見てもいつまで見ていても飽きない字は、同じ時もありますが、違う時もあります。これも品性と教養に関わりますし、どちらもいろいろな体験が必要です。まだまだ私は体験不足ですので、このレベルに達していません。すでに初老なのでこのレベルに達することは難しいかも知れませんが、諦めず体験を積んでいきます。このたびの審査もその体験になると良いと思い、そのような気持ちで審査に臨ませていただきます。
 
審査に当たって
今井凌雪師からは、書の評価は、「誰が、何を、どのように書いているか」から決まる、そして審査とは、「審査する者が審査されるもの」、さらに「書は役者が演技するようなもの」であると教わりました。ですので、襟を正してこのような視点から審査させていただきます。

  単著   新潟日報2022年4月30日特集13面   新潟日報社   13面頁   2022/04


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