ワタナベ ヨシヒコ
  渡辺 良彦   外国語学部 英語学科   教授
■ 標題
  英語の補部の関係節の統語論・意味論と先行詞の問題
■ 概要
  (令和3年度大東文化大学特別研究費(研究成果刊行助成金)による刊行物である。査読有)

 関係節は内部に空所を含み通常は制限修飾部として先行詞を限定修飾する。これは個体の集合(つまり属性)を限定修飾するいわゆる制限的関係節(以降、制限節)で、空所には個体変項が措定される((1) I met the girl [who I like [個体変項]])。しかし、同じ関係節の形をしていながら、主要部名詞に対して、その意味的空所を埋める補部として機能するものがある(cf. [2])。本書の目的は、述詞関係節((2) That showed the kind of woman [she was [空所]].She had enormous strength of will.)および様態・理由の副詞句を空所とする関係節((3) That is a way [in which they can communicate with each other [空所]])を中心に、これらが関係節でありながら修飾部でなく補部という意味機能を果たすのはなぜかに対して理論的説明を提示することである。
 (2)(3)の関係節が補部として機能できるのは、空所に変項らしくない変項として擬似変項が存在するからと主張した。擬似変項とは、先行詞名詞((2)(3)の女性・方法)がソータル内部解釈により、その種の亜種の属性が空所に措定された変項である。この擬似変項がそのその外延の存在を前提とすることにより、問題の関係節は命題としての性質を獲得して、(1)の制限節が命題関数(述部)と解釈されるのに対して(2)(3)では項として機能すると主張した。例えば、(2)の述詞関係節では、「彼女がどのような女性亜種であるか」の亜種の属性の顕現体/例化が文脈内の'She had enormous strength of will'の部分であり、擬似変項として空所に措定された述語の[女性亜種]はこの顕現体/例化の存在を前提としていると主張した。よって、関係節は実質的に'She was {that/such a} kind of woman'のような文、つまり命題に相当すると言える。このような関係節は主要部Nと併合して亜種の属性を表すN'を構成するとした。この場合、関係節は主要部N(種)の亜種レベルを意味的空所としてそれを埋める補部の働きをしており、集合論的には補部の関係節は先行詞名詞の種の「部分集合」として亜種の属性を定義すると主張した。さらに、この命題性は究極的には論理形式(logical form, lf)の概念である命題から導出されるとした。このlfレベルで関係節(空所を除いた節の残りの部分)が表す「情況」あるいは「イベント」は、空所の述語の項として機能することにより関係節は「下位イベント」を定義し、その帰結として統語論すなわちChomsky式のLFにおいて補部として解釈されると主張した。同様の説明は(3)のway in which関係節の空所についても当てはまる。
 本書の方針として、複数構造仮説を採用する[1]と異なり、制限節および補部の関係節の統語構造に関しては先行詞の統語範疇とその指示対象との1対1の関係を破棄して単一構造仮説をに依拠すること、先行詞の指示対象は意味論で決定されることを提案した。単一構造仮説を擁護する議論として、名詞的でない意味(あるいは概念)を先行詞とする時の関係節((6) the time [that/ゼロ...])を一事例として取り上げてその補部分析を展開した。
[1] 河野継代(2012)『英語の関係節』開拓社
[2] 長原幸雄(1990)『関係節』大修館書店

  渡辺良彦
  単著   ひつじ書房      2022/02


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