ワタナベ ヨシヒコ
  渡辺 良彦   外国語学部 英語学科   教授
■ 標題
  On the Relation between the choice of That or Which and the Articles The and A in‘Complement’Relative clauses.
■ 概要
  本稿では、これまであまり取り上げられることのなかった問題として、(1)(2)にあるような関係節構文において、関係詞 that(およびφ)と whichの選択が、先行詞名詞の冠詞the/aの選択とどのような関係にあるかを扱う。(1)She is not the cheerful woman{(that)/*who}she was before she married.(2)His letter(December 5)implied the Soviet Union is a“fascist state”which,of course, it is not.(1)(2)の関係節構文では、いずれも関係節内の空所(gap)(それぞれ、she was、it is notの後ろの位置のこと)がbeの補語であり、かつ、先行詞+関係節から成る名詞句全体もbeの補語となっているという特徴がある。本稿ではこれらを「補部関係節(complement relative)」と呼ぶ。(1)の解釈は、「彼女は結婚前にはx kind of cheerful womanであったが、現在はそれと比べてthe same kind of cheerful womanではない」という読みである。x kind of womanは空所の部分の意味である。x(変項)の値は与えられておらず、何でもよい。(2)は、「(手紙によれば)ソビエトは総称概念または種類としての「ファシズム国家」のひとつの具体例(an instance)であるとされるが、実際にはソビエトはそのような総称概念(種類)のいかなる具体例でもない」という読みである。この場合は、空所は「(ファシズム国家という総称概念の)いくつかの具体例(some instances)のような意味を表すと考えられる。説明が求められるのは、(1)のような解釈では、関係詞はthatまたはφであってwhichは許されず、また、先行詞名詞の冠詞はは定的(definite)なtheでなければならないが、一方の(2)では、冠詞は不定(indefinite)のaであり、thatの代わりにwhichが用いられてφ関係詞は容認不可であるということである。関係詞that(φ)/whichの選択と冠詞の定・不定の選択との間になぜこのような関係があるのか。本稿での結論は以下のようになる。(1)の定的なタイプの補部関係節では、that/φの先行詞は総称概念(種類)としてのcheerful woman(範疇はN’)の部分であり、定冠詞のtheが空所のxを束縛することによって「どんな種類の cheerful woman」かが具体的に定まる仕組みとなっている。つまり、xの値が決まればthe cheerful womanの解釈も決まるわけである。Thatは、先行詞と空所のkind of cheerful womanの部分が共に総称概念(種類)であることを表す働きをしている。一方、(2)の不定的タイプでは、whichは「分類」(classifying)機能を果たすと考える。この点がthat/φとの相違である。Whichの先行詞は同じく総称概念(種類)の部分ではあるが、関係節内の空所にはその総称概念を分類した結果の「具体例」(some instances of‘fascist state’)が存在する。Whichが持つとされる分類機能は、単純な叙述文にも見られる。たとえば、Soviet Union is a fascist state.では、補語は(単数では)必ず不定のaを伴うが、これは総称概念(種類)としての「ファシズム国家」が分類されてその具体例(メンバーの一つ)となったからと考えられる。Whichにこのような分類機能を認めると、なぜ、先行詞名詞が(2)のように必ず不定冠詞でなければならないかが説明される。このように、関係詞のthat/φとwhichの機能の違いと空所の要素の違いとから、(1)のタイプと(2)のタイプの補部関係節の解釈の相違が説明される。[レフェリー有]
  渡辺良彦
  単著   English Linguistics   日本英語学会、開拓社   21(2),454-466頁   2004/12


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