ヤマグチ シオ
  山口 志保   法学部 法律学科   教授
■ 標題
  「合意の意義の歴史的展開(三)――「誠実交渉義務」と「信義則」の対比において――」
■ 概要
   本稿は、交渉破棄事例の考察により、契約締結上の過失理論が射程とする契約交渉であっも、原始不能と交渉中途挫折では論拠が異なるとの前提にたち、交渉責任を論じる論説の一部である(参照・「合意の意義の歴史的展開(一)――「誠実交渉義務」と「信義則」の対比において――」1999(平成11)年2月東京都立大学法学会雑誌第39巻第2号283頁~327頁、「合意の意義の歴史的展開(二)――「誠実交渉義務」と「信義則」の対比において――」1999(平成11)年7月東京都立大学法学会雑誌第40巻第1号215頁~253頁、未完)。本論説は、1890年代以降のアメリカ法判例の分析を行い、それを論拠と試みるものである。判例分類には契約の種類以前に、当事者間に想定される、信頼の基礎となる何らかの「間柄」の有無を用い、これにより判例を大きく二分し、その上で契約の種類に応じて分析を加えるものである。連載の第一稿では、前提となる日本法の現状を明らかにし、その観点から比較法考察を、第二稿では第一稿に引き続くアメリカ法判例考察を行った。第三稿である本稿は、継続したアメリカ法判例考察を終結させる。そして、各分析の結果、約束から合意が導かれ、さらに合意が当事者が必要十分とする内容に及ぶ場合に、契約が成立するものと論じる。すなわち、契約交渉において当事者の保護、あるいは当事者を拘束し相手方に対して生じる責任の発生根拠は、合意にある。同時に、合意により導かれた当事者が相互に寄せる信頼も、拘束力の根拠となりうるものであり、従って合意は二面的構造を成立当初から内包しているものと考える。但し、拘束力の根拠は合意のみとするのではない。合意が導く場合と同程度の信頼にも拘束力が認められるものと考える。即ち、合意の前提として存在する約束にも、一定の場合には拘束力が合意と同様に生じうる。約束的禁反言が適用される事例にはこの点が顕著となろう。これらの考察から、アメリカ法のいわゆる誠実交渉義務は、相手方を拘束するに足る信頼を根拠として生じることを明らかにした。
  単著   東京都立大学法学会雑誌第40巻第2号   111頁~166頁頁   1999/12


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