ヤマグチ シオ
  山口 志保   法学部 法律学科   教授
■ 標題
  「裁判例からみた不動産仲介契約の報酬請求権の発生――交渉責任序説――」
■ 概要
   前編(「合意の意義の歴史的展開(一~三、未完)」)において得た、契約の種類により異なる信頼構築のあり方の違いを契機として、純粋な不動産契約(売買および賃貸借)とは別に、その仲介者契約に独自の契約責任の成立を見出すことを狙いとするのが、本稿である。 この場合の契約責任とは、不動産契約成立への仲介者の関与の程度により契約成否が異なり、よって生じる仲介者の責任を問うものではない。むしろ、不動産売主(貸主)又は買主(借主)が仲介料の支払を免れることを目的として、或いは偶然に契約交渉がいったん頓挫した後、直接に当事者間で売買(賃貸借)契約が成立したことを知った仲介者による仲介料の支払請求を通して、不動産仲介契約の成否につき検討を加えたものである。不動産仲介契約の成否については従前、請負契約または委任契約の類推適用がなされ、この観点から両典型契約の中間的な位置を占める契約として扱われることが傾向にあった。この場合の仲介料の支払いについては、仲介契約がキャンセルされた時点における、成立した不動産契約への仲介者の関与の割合に応じて定められるものとされた。他方、仲介契約の法的性質を問わず、条件成就妨害との観点から解決がなされる傾向もあった。即ち、仲介契約のキャンセルは仲介依頼者による支払条件成就の妨害とみなし、キャンセル時点でどの程度契約条件が整わんとしていたかの程度により、妨害度合いが認められ、仲介料が斟酌されるものである。本稿は、不動産仲介契約の成否という観点からは、比較的にはこの二説の前説に依拠するものである。しかしながら、不動産仲介契約の法的性質を決定し、そこから報酬請求権の有無を問うものではない。不動産仲介契約に見出される射倖的性質はそもそも否定されるべきとの観点から、一旦成立した不動産仲介契約は、仲介委託者の一方的事由により解除されることはあっても仲介料も同時かつ完全に消滅するのではなく、報酬請求権の発生は不動産契約の成否に平行するとの視点から、仲介報酬料のありかたを論じる。
  単著   三重法経113号   1頁~28頁頁   2000/03


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