オオスギ ユカ
  大杉 由香   スポーツ・健康科学部 スポーツ科学科   教授
■ 標題
  「近代日本の災害時における児童・未成年者のあり方―メディアに表れた児童・未成年者の社会的立場を考える―」
■ 概要
  近年、災害の多発も影響して、日本における災害史研究は急速に発展を見せたものの、個別災害の全体像解明に重きが置かれたため、特性ある社会集団(この場合は児童・未成年者)に注目するにしても、あくまでも全体像の一部として扱われることが多かった。そのため児童・未成年者への社会的視線・取扱がいくつかの災害を経る中でどう変化してきたのかに関しては不分明なままとなり、これは先行研究が長期的視点を以て災害時・災害後における児童・未成年者の人権のあり方を検討してこなかったことを意味していた。そこで本稿では近代日本の代表的な自然災害時における児童・未成年者報道に焦点を当て、それぞれの災害時・災害後における彼らと成人の関係を探ると同時に、彼らの生存権の扱われ方がどう変化したのかにも注目した。なお児童保護・愛護の精神が一部表れ始めた頃に発生した関東大震災の時でさえ、児童・未成年者たちは成人を支えるべく、いわば小さな成人としての振舞を強制される等、権利侵害は数多く見られたが、実はそのあり様は現在問題にされているヤングケアラー等にも通じるところがあり、決してこうした権利侵害は過去のものではない。そして現在でも特に災害時・災害後によく権利侵害問題が見られる要因としては、未だに日本では家族・親族(「私」)が児童・未成年者にとって唯一の砦で、一旦この砦が機能不全に陥ると、民間非営利組織(「公(民)」)の機能が弱いために、行政(「官」)が介入しない限り、児童・未成年者たちは孤立し、社会的排除をされかねないこと等が挙げられる。所謂戦前社会の問題が未だに響いているのである。
  単著   環境創造   大東文化大学環境創造学会   (30),29-67頁   2023/03


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