オオスギ ユカ
  大杉 由香   スポーツ・健康科学部 スポーツ科学科   教授
■ 標題
  「統計から見た戦前日本における不就学問題―性別・地域差による児童間格差問題と児童の権利を考える―」
■ 概要
  戦前日本における不就学率の低下動向は1910年代まで各地方によって多様であったが、少なくとも統計上では1920年代半ばには殆どの府県でほぼ解決を見たとされ、その背景には方面委員制度の普及や工場法改正等があった。もっとも実際には統計値よりもはるかに多い不就学者の存在があり、統計は必ずしも現実を反映しているとは限らなかった。ただ過小に反映された数値とは言え、各道府県の不就学率の数値はその当時の社会経済状況や男女格差、その地域の教育のあり方等を示す重要な指標であることも確かであった。そこで本稿では1910~37年度の就学関連統計を使用し、各道府県及び植民地における長期分析を行い、その結果を踏まえて全国的視点から再度各地方を鳥瞰することを試みた。なお本研究では、有効な教育行政を実施しなかった県では1920年代半ば以降も貧困児童の就学が経済動向に左右される傾向があったこと、また不就学問題は大都市部を抱える府県のみならず、沖縄をはじめとした大消費地から離れた地方でも深刻であったこと、かつ台湾の原住民における際立つ高不就学率と年々拡大した男女格差問題等を明らかにした。不就学における男女格差問題について言えば、1920年代半ばは人口動態的視点からも女子の相対的地位の向上が見受けられ、それのみならず1930年代になると、男子不就学率の方が高くなる傾向を看取することができた。しかしそれは貧困児童の不就学問題が一応表向きはある程度解決を見たのに対し、障がい児では不就学問題が残っていたことによるもので、健常児では女子の相対的地位が向上していたのとは対照的に、障がい児の生存においては未だに男子が優先されていた表れであった。つまり以上の状況に象徴されるように、戦間期日本においては、不就学問題をはじめとする児童の中の弱者問題は目立たたない問題として、一部の識者を除けば深刻に受けとめられず、結局、性別・地域差等による児童間格差問題は解決を見なかったのである。
  単著   環境創造   大東文化大学環境創造学会   (28),25-62頁   2022/03


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