コウノ ヨシツグ
  河野 良継   法学部 法律学科   教授
■ 標題
  「鉄道事故とネグリジェンス責任の形成」
■ 概要
  本論文は、過失責任主義が産業革命の発展に寄与したという、法学・法史学の通説的な理解を再検討することを意図したものである。鉄道時代以前の馬車運送の事故事例において、運送人に対して非常に高いレベルの注意義務が想定されていた。その後、鉄道時代となり、鉄道事故の事例が登場するようになっても、過失推定則によって、鉄道会社の責任は事実上厳格責任と同等の責任として扱われていた。ところが、1860年代以降、過失推定の理論が裁判所によって否定され、かわりに合理人基準、実際的観点からの予防といった考え方が登場するようになった。このような変化は、事故観念の変容への法的対応であるというのが私の見解である。産業革命以後のリスクは人為であり人間にとって操作可能であるから人間の責任であるが、他方、リスクの完全除去は不可能であるという認識が登場したため、厳格責任的発想から合理人基準の原則へと責任原則が転換したのであると考えられる。
  単著   『阪大法学』第五二巻第三・四号      2002/11


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