ヒロエ ノリコ
  廣江 倫子   国際関係学部 国際文化学科   准教授
■ 標題
  「解釈か改正か―香港基本法解釈のメカニズム―」
■ 概要
  香港は、香港特別行政区基本法(以下、基本法と称する)という独自の憲法を有し、中国本土とは全く異なる政治・経済・社会制度を維持している。同様に、法律制度も、中国に返還される以前に使用されていたコモン・ローが引き続いて使用されている。香港法に中国が影響を及ぼす機会は非常に限定されており、中国全国人民代表大会常務委員会(以下、全人代常務委と称する)による基本法の解釈権はその最大のものである。ところが、この基本法への全人代常務委の解釈は、香港の法曹界から、実質的な基本法の改正に匹敵すると非難されてきた。つまり、全人代常務委による基本法解釈により、全人代常委会による基本法解釈と改正の境界が曖昧なものとなるばかりか、基本法全般に及ぶ全人代常委会の潜在的解釈権を容認するのであれば、基本法159条に規定される改正手続に拘束されることなく、解釈権発動という方法で自由に基本法の実質的改正を行うことができるのである。そこで本稿においては、全人代常務委による基本法解釈のメカニズムと基本法改正手続きにはどのような違いがあるのか。さらには、中国の立法手続と香港の立法手続にはどのような違いがあるのか、以上について、比較し、違いを検討することを目的とした。
本稿の考察結果から、基本法解釈と改正については、次のことが分かった。改正については、直接選挙を経た香港立法会の議員の3分の2の多数の同意が必要とされているのに対し、解釈では、少なくとも手続的には、香港人の民意が全く反映されない形となっている。中国の立法手続と香港の立法手続については、中国と香港の間で、法案起草の決定、法案起草者、議会の構成に違いがあり、かつ中国の立法手続には中国共産党の影響も無視できない。そして今後は、基本法解釈という形での改正を容認していくのか、あるいは改正に準じた手続を構築するのかは、香港の将来的なあり方を構築するうえで、重要な分岐点となる。

  単著   佐々木有司編『法の担い手たち』   国際書院   263-286頁   2009/05


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