ヤナセ トオル
  柳瀬 公   社会学部 社会学科   助教
■ 標題
  『リスク社会のフレーム分析-福島第一原発事故後の「新しいリスク」を事例とした実証的研究-』
■ 概要
  本書の目的は、メディア・フレーミング効果の視座に立ち実証研究を行い、メディアの報道内容と受け手の受容・解読との関係性を明らかにし、そこで得られた知見から「新しいリスク」報道の社会的機能を解明する手がかりを見出すことである。
 本書の理論的背景には、U.ベック(e.g., 1986=1998)やA.ギデンズ(e.g., 1990=1993)らの指摘する再帰的近代化に関する理論がある。この視座に立つことによって、現代は「新しいリスク」が潜在している社会、つまりリスク社会と捉える。本書では、「新しいリスク」を「近代化による社会構造の変容とともに出現した現代社会の条件下で扱われるリスク」と定義した。
 実証研究では、「新しいリスク」の事例として「放射性セシウム汚染牛問題」を取り上げ、トライアンギュレーション(三角測量)と呼ばれる手法を採用した。具体的には、新聞記事の内容分析、受け手のグループ・インタビュー、受け手のインターネット調査による実験の3つの異なる研究方法からメディア・フレーミング効果を検証した。その結果を基に、「新しいリスク」報道におけるメディアの社会的機能として演繹的に導いた「ニーズ充足機能」「不安低減機能」「原因究明・責任追及機能」の3つの機能を果たしているのかを考察した。
 結論では、「新しいリスク」の報道は、人びとの情報充足感を満たすに至らず、かえって不満や不安を助長させ、社会的機能を十分に果たしていないことを導出した。特に、事故の原因と責任の所在を明確にする「原因究明・責任追及機能」は、人びとにとって原子力政策の賛否を判断する材料になり、今後の原子力世論を形成する可能性を秘めており、重要な機能であることを指摘した。

  単著   学文社      2015/08


Copyright(C) 2011 Daito Bunka University, All rights reserved.