A.R. ウルック
  A.R. ウルック   国際関係学部 国際文化学科   准教授
■ 標題
  教室のダイナミクスと学習相互作用―分子・構造理論の教育への応用試論―
■ 概要
  日本の高校の教室では、クラスの人数に関わらず、生徒の座席はあらかじめ指定されており、定期的に前列から後方へローテーションする方法が一般的であり、この方法は、多くの西洋諸国の教室でも通例となっている。しかしながら、日本の大学、短大、高専などといった高等教育機関では、このように国際的にも慣例となっている座席のルールとエチケットとは、極めて対照的な状況を観察することができる。すなわち、今日多くの日本の大学において、特に日本人教師の担当する授業の教室では、学生は教師からできるだけ離れた後方の席に座る。多くの大学の教室は、特に古い建物では、100人の学生がゆったり座れるほどの広さがあり、しかも1クラスの平均的学生数は15〜30人であるため、その結果生じる空間(隙間・すきま)あるいは「教育的間隙」pedagogical dissonance は極めて顕著であり、より詳細な考察と検討に値する。つまり、この「教育的間隙」pedagogical dissonance は、まさに「コミュニケーションを阻害するもの」communication decay としてはたらくこと、すなわち教師=学生間の「教育・学習相互作用」learning transaction の中核を蝕むものとなるからこそ、これに注目し研究する意義があると言える。筆者は、このコミュニケーション阻害空間こそ、学習環境の中で生じる他の全てのものに悪影響を与える元凶となっていると論断する。本研究は、この現象を究明するために、二つの枠組みを用いて、教室内の座り方の重要性を認識するとともに、授業担当者に実践的な手引きを提供することを目指すものである。第一の枠組みは、分子科学からのもので、分子のグルーピングの性質に基づき、多様な座席のシナリオに応じて、そのグルーピングが、どのような枝分かれ(網状拡大組織)を持ちうるかを総合的に理解することを助けてくれる。第二の枠組みは、構造工学からのものであり、強度と結合の観点から、学生たちの座り方を解釈することを可能にする。本研究は、試行的予備的研究であり、その最初の探索であるため、未だ量的データを提示するには至っていないが、この分野における問題の所在を明らかにし、直接的参与観察の記録を質的データとして示すことを通して、教室環境の改善方法を提案し、座席の座り方やグルーピングのスタイルがもたらす教育への影響についての学術的研究を促すことを目的としている。
  A.R. ウルック
  単著   大東文化大学紀要(人文科学)   (61),335-354頁   2023/03


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